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『てよだわ言葉』の女性たち 〈410JKI27〉

日本語には、男性がよく用いる言葉とは別に女性向けとされる言葉が存在しています。それを“女ことば”と呼んだりしていますが、その一つに明治時代前半頃から有産階級の女子学生の間で使われだした『てよだわ言葉』(『てよだわ語』とも)があります。

しかし最近では、小説やテレビ・映画、漫画やアニメなどの中を除くと、日常においてこれらの言葉が実際に使われている様子を見ることはマズありませんよネ。でも逆にその様な創作物の中で際立っているこの言葉遣いについて、大いに興味を魅かれる人は多い様です。

実は私もそのひとりであり、以前からその成り立ちについて関心を持っていました。そこで本稿では、この『てよだわ言葉』について調べてみたことを皆様にも紹介したいと思います…。

 

『てよだわ言葉』とは、主に語尾に「てよ」や「だわ」などを用いる言葉の総称で、その独特の語尾使いと語彙を特徴とする女性特有の話し方で、言語学者の中村桃子教授の造語ともされています。「素敵だわ」・「良くってよ」とか「嫌だわ」・「構いませんことよ」などの言い回しに代表され、疑問文の文末には「~かしら?」等を付けるという口調で、当初は当時の文化人等からは奇異な言い回しとして非難の的となっていた様子ですが、その後、結果的には中流階級以上の女性層において定着していき、やがて規範的な女性語として認知される様になります。しかし戦後の一時期における使用を経て、現在では一般的にこの言葉が使われることは無く、また、お嬢様や上級階級の婦人などの口調を表わす言葉の代名詞として、少々、誇張して認知されている様です。

特に我国の話し言葉は、1970年代半ば以降からは男女ともにユニセックス的な言い回しが氾濫して、現実には『てよだわ言葉』とその亜流の女性語はほとんどが絶滅、映像系のフィクション作品やアニメ・漫画などの作中人物の女性が用いる他は代表的な“オネエ言葉”として残っている位に思われますが、如何でしょうか…。そしてその使用目的は「女性々向を示すことが際立って簡単に可能な言葉遣いである」ということなのです。

 

さて、『てよだわ言葉』の出現は凡そ明治12年~13年頃ではないかとされています。例えばそれは、作家の尾崎紅葉が明治21年に執筆した随筆『流行言葉』において、「今より8~9年前、小学校の女生徒がしたしき間の会話に一種異様なる言葉づかひせり」と批判的に書き、その中で「梅はまだ咲かなくってよ」とか「桜の花はまだ咲かないんだわ」などという例を挙げているからですが、この言葉遣いに関しては、明治初年頃の女子学生たちが、維新後において新たな社会的存在として確立された自分たちのアイデンティティを解り易く表現する方法の一つとして創り出した特徴ある話し方の用法ではないか、との推測もあるそうです。

しかし、『てよだわ言葉』が広く同時期の社会に浸透していくのには別の事情が働いたとも考えられています。それは西洋の翻訳小説や日本の作家たちの新しい文芸作品の中で、女性特有の言葉として『てよだわ言葉』が用いられ、それを一般の女性たちが模倣することを通じて広い層に浸透していったという説です。

当時、翻訳家にとって外国の小説を日本語に翻訳する場合に、登場人物の女性にどの様な言葉を使わせるかが問題でした。それは従来、日本国内で一般の女性が使っていた言葉は敬語遣いが大変多くて、(日本の女性に比べてハッキリと意見を言う)西洋の女性が話す様子には似合わないと思われました。そこで当時、女子学生たちが使っていた『てよだわ言葉』を採用してみたところ、非常に具合が良く馴染むということになったのです。

そんな訳で、最初は翻訳小説での女性言葉として使われたことがきっかけとなって、その後は我国の作家たちも自作において特定の地位にある女性存在を示す話し言葉として積極的に取り入れていきました。

また後年、詩人で作家の佐藤春夫も、『国語の順風美化』(1941年)の中で「…はじめは小説の中の会話を読者の女学生が…(中略)…口真似したものが、後には一般の用語となって今日の如く広まった…」と書いています。

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