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《ファンタジーの玉手箱》 大盗賊、石川五右衛門の真実とは? 〈2354JKI40〉

さて、石川五右衛門の処刑以前の履歴については諸説があります。一説には名前を石川文吾と称しており、伊賀交野郡生まれの元伊賀流忍者であったと言われ、伊賀流忍術の祖である百地(三太夫)丹波に弟子入りして忍術を修得したが、三太夫の妻と密通の末に抜け忍(忍者くずれ)となったというのです。

また三好氏の家臣であった石川明石の子息で、幼少より体幹長大で三十人力を有し、若干16歳で主家の宝蔵を破って蔵の番人3名を斬り殺して黄金造りの太刀を奪い、逐電した後に諸国を放浪しながら盗みを働いたと伝わります。

他の説には、丹後守護であった一色家の家来であった石川秀門の次男である石川五良衛門その人とする(『丹後旧事記』)ものもありますが、更に異説には当初、遠州浜松の生まれで真田八郎と称したが、河内国石川郡山内古底で医家となり名を石川五右衛門と改めたという説もあります。

※『真書太閤記』では生国は河内国の石川村で、幼名は五郎吉とされています。また伊賀忍者の記述なども『絵本太閤記』によるもので、その信憑性は極めて低いとされます。盗賊の様子も『慶長見聞集』などで語られているものです。これらは、ほとんどが作り話でしょうね。

 

五右衛門は何故、義賊となったのか?

石川五右衛門が本来は単なる犯罪者であるのに何故か好感度が高いのは、江戸時代以降に歌舞伎や浄瑠璃などの演目で「義賊」として扱われた事が大きいようです。つまりは彼は、悪の権力者から金銀財宝を奪い、それを惜しげもなく貧しい庶民に分け与えるという「民衆のヒーロー」的存在として描かれた事で人気を博したのです。また彼は、巨大な権威(秀吉)に対抗する者として俗に言う判官贔屓の対象でもあり、その点でも支持は高まります。

その結果として江戸時代を通して、浄瑠璃や歌舞伎、そして読本や講談などの創作の世界では、義賊・石川五右衛門を主人公とする「五右衛門物」と称される、夥しい数の作品群が一つのジャンルとして成立していきました。

既に浄瑠璃では元禄時代(1688年~1704年)以前に「五右衛門物」が上演されており、並木五兵衛作の歌舞伎『金門五三桐』(後に『楼門五三桐』)は安永7年(1778年)4月に大阪「角の芝居」で初演された演目で現在も上演が続く人気作品です。鶴屋南北にも『高麗大和皇白波』があり、井原西鶴も『本朝二十不孝(我と身を焦がす釜が淵』で五右衛門を登場させています。

※人形浄瑠璃(文楽)には、松本治太夫の正本『石川五右衛門』、近松門左衛門作『傾城吉岡染』や並木宗輔作の『釜淵双級巴』があります。

ところで五右衛門は歌舞伎『楼門五三桐』の中で、京都の古刹・南禅寺の山門の上で煙管を吹かし乍ら

絶景かな、絶景かな。春の宵は値千両とは、小せえ、小せえ。この五右衛門の目からは、値万両、万々両・・・

と大見栄を切りますが、これは歌舞伎において大変に有名な場面となり、彼の名科白(台詞、セリフ)として広く人口に膾炙していきます。

 

こうした作品がより一層彼の義賊のイメージを高め、史実とは隔たった俗説が生まれます。例えば、当初の歌舞伎や浄瑠璃では事実として確認される五右衛門処刑の場面を最後に据えて、御家騒動に巻き込まれて仕方なく(義賊ではあるが)盗賊となった彼の苦心惨憺を描く構成が主でしたが、やがて歌舞伎の役柄でいう「国崩し」、つまり天下国家(この場合は豊臣政権)の転覆を狙う魅力的でスケールの大きな怪盗というキャラクターが形成されていくのです。

そして五右衛門は、いつの間にか「伊達(だて)」で「ニヒル(虚無的な人)」を絵に書いたような性格の大悪党となり、それが江戸時代の民衆の間で超人気のヒーローとなったのでした。

因みに、あの「金襴褞袍(きんらん どてら)」に「大百日鬘(だいびゃくにち かつら)」という出で立ちで悠然と煙管(キセル)を吹かしている五右衛門ルックの由来は、当然、歌舞伎役者の扮装から来ているものですが、寛永4年(1851年)の正月に中村座で葛篭抜けや宙乗りで大当たりを取った、四代目市川小團次が演じた五右衛門の姿が手本になっているともされています。そしてこれが今日では一般的な五右衛門像となっているのです。

また江戸時代の徳川政権下では、創作者たちにとって五右衛門は豊臣秀吉の命を狙う義賊であり、あくまで(徳川家の仇敵であった)豊臣家を敵役にするというストーリーが都合が良かったとも考えられます。要するに歌舞伎や浄瑠璃での五右衛門の描かれ方の背景には、豊臣家(豊臣秀吉)を可能な限り悪役とすることで反対に江戸幕府や徳川家の立場が浮上するという御上(徳川幕府)の意向が陰で強く働いていたのではないか、と思うのです。

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