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『ショック・ドクトリン(The Shock Doctrine)』-1、火事場泥棒の資本主義は本当にあるのか!? 〈248JKI28〉

ショック1ダウンロードショック・ドクトリンとは、大惨事や危機的状況につけこんで実行される過激な市場原理主義改革のことで、それは「惨事便乗型資本主義(The Rise of Disaster Capitalism)」とも言われる。

日頃から、台風や地震・津波、火山噴火などの自然災害や、原発事故などの危険に晒されている我国には、きっとショック・ドクトリンの魔の手が伸びて来ているに違いない。      

 

少し前のベストセラーだが、皆さんは『ショック・ドクトリン(The Shock Doctrine)』という本をご存知だろうか?

ナオミ・クライン(Naomi Klein)が2007年に世に送り出した書籍で、マイケル・ウィンターボトムによって2009年にドキュメンタリー映画化されたものだ。

またナオミ・クラインは、1970年5月8日生まれのカナダ・モントリオール出身のジャーナリストで作家。かつ現在、世界でも極めて著名な女性知識人・活動家の一人として知られている。

1999年に出世作『ブランドなんか、いらない』を出版し、一躍、反グローバリゼーションの旗頭として世界的な評価を受けた。続いて2002年には『貧困と不正を生む資本主義を潰せ』を著わし、一層の名声を確立した。

 

クラインの著書『ショック・ドクトリン』によると、(米国の)一部の政治勢力と大企業は「惨事便乗型資本主義」のもと、政変・テロ・戦争や大規模な自然災害などによりもたらされた危機的状態をとらえ、あるいはそれを意図的に創り出すことで、被害を受けたり巻き込まれた民衆がショックや茫然自失の状態から回復して、理性を取り戻し社会生活を復興させる行動に出る前に、急進的な市場原理主義を導入することで、自らの目的達成と利益追求に邁進してきたというのだ。

 

ナオミ・クラインは、ショック・ドクトリンの最初の顕著な実例は、1973年のチリ軍事クーデター(ピノチェト政権)であるとする。

その当時チリでは、無実の一般市民への抑圧や残虐行為が行われ、多くの公共部門の民営化や福祉・医療・教育などの社会福祉費用の大幅な削減が実施されて、更には「惨事便乗型資本主義」が蔓延って多数の国民が搾取され、窮地に追い込まれたと云う。

以降、中国の天安門事件(1989年)、ソ連邦や東側陣営の国々の崩壊(1991年~)、アメリカ9.11同時多発テロ事件(2001年)、イラク戦争(2003年~)、スマトラ島沖地震 (2004年)による津波被害、ハリケーン・カトリーナ(2005年)による被害といった、政変・テロ・戦争・災害などの危機的状態を挙げ、「惨事便乗型資本主義」はこれにつけこんで、急進的な経済改革や利益追求を実施してきたとする。

2003年に始まったイラク戦争の後も、「惨事便乗型資本主義」が一気に拡大した。大きな混乱の中で、治安維持やテロ対策にまで営利を追求する民間企業が進出する徹底ぶりであった。

この戦争は、もともと「惨事便乗型資本主義」により金儲けを企む勢力が企図したものであり、そのシナリオ通りに事は進んでいったとされる。

まず最初に「大量破壊兵器の撲滅」という目的のもとで戦争がしかけられたが、フセイン政権の崩壊後間もなくから、徹底的な経済的ショック療法が導入されていった。完全な自由貿易、15%の一律課税、大規模な民営化、行政機構の大幅縮小といった政策だ。

そしてこれに反対したイラク人民には、逮捕・検挙された上で収容所等での残虐な仕打ちが待っていたとされる。

2004年12月に発災したスマトラ沖大地震は、スリランカに大規模な被害を与えた。発生した大津波により約3万5,000人が死亡し、100万人近くが避難した。しかも被害者の内、約80%は沿岸部の貧しい漁業関係者たちであった。

ところが、この大災害につけこんで、巨額の利益をあげた不動産開発業者があったのだ。本来、性急な開発に反対していた沿岸地域では、大きな津波被害に乗じて、復興の名のもとに大規模不動産事業者がリゾート開発などに着手し、公営事業の民営化も急ピッチで進められたのだ。

2005年8月末にアメリカ南部がハリケーン・カトリーナに襲われた時には、ニューオーリンズ地域などにおいて、本来なら被災者救済に当てられるべき資金が公教育制度の解体と民間への移行に転用され、また復旧に際して広範に「惨事便乗型資本主義」が台頭し、一部の企業などが被災地を金儲けの場として利用していたという。

2008年7月、ブッシュ大統領は、1981年に制定された環境保護のために米国近海の大陸棚での石油・天然ガス採掘を禁止してきた法律を改訂するべく議会に要請を出した。

ブッシュ政権は、エネルギー資源の対外依存率を下げ、ガソリン価格の引き下げをもたらすためとしていたが、これは当時の石油価格高騰に乗じたまさしく火事場泥棒的な手口であり、正しい問題解決策とは程遠い、一部の石油関連の大企業の利益を追求した為の働きかけだとクラインは指摘している。

 

因みに、ショック・ドクトリンを具現化している企業については、例えば、諸子百家さんのKijidasu! 5月5日の記事「富裕層の自治体、『サンディスプリングス』。」において紹介されている、自治体の運営を請け負っているCH2M ヒルという民間会社は、イラクでも各民間の請負業者を統括・監督する業務を委託され、津波に襲われたスリランカでもインフラ再建事業の包括的管理業務を引き受けていた。更に、ハリケーン・カトリーナ被害のニューオーリンズでも、FEMA(米国緊急事態管理庁)の避難施設建設を受託したりしており、米国の「惨事便乗型資本主義」を代表する企業である。

 

かねてより武器製造業などの軍需産業(軍産複合体)等は、戦争が起きることで儲けが生まれる体質故に、「死の商人」とされてある意味「惨事便乗型資本主義」の先駆的な存在であった。

しかし、本書においてクラインの云う昨今の「惨事便乗型資本主義」の勢力や企業たちは、そのターゲットととする事象と目的が大変幅広く大きい。

国際間の政治的な軋轢などに起因するトラブルのみならず、また人的なものにも限らず、地球規模の気候変動や自然災害を含め、ありとあらゆる大規模な災厄を切っ掛けとして、政治や経済体制の変革を狙い、最終的には国家そのものへの新自由主義の導入を目指す点が、以前の「死の商人」による、戦争の勃発による新兵器開発のニーズの発生と武器等の需要拡大といった局部的? な要求とは大きく異なると考えられる。

 

【『ショック・ドクトリン(The Shock Doctrine)』上巻目次】
序 章 ブランク・イズ・ビューティフル
――30年にわたる消去作業と世界の改変
第一部 ふたりのショック博士――研究と開発
第1章 ショック博士の拷問実験室 
――ユーイン・キャメロン,CIA,そして人間の心を消去し,作り変えるための狂気じみた探究
第2章 もう一人のショック博士
――ミルトン・フリードマンと自由放任実験室の探究
第二部 最初の実験――産みの苦しみ
第3章 ショック状態に投げ込まれた国々
――流血の反革命
第4章 徹底的な浄化
――効果を上げる国家テロ
第5章 「まったく無関係」
――罪を逃れたイデオローグたち
第三部 民主主義を生き延びる――法律で作られた爆弾
第6章 戦争に救われた鉄の女
――サッチャリズムに役立った敵たち
第7章 新しいショック博士
――独裁政権に取って代わった経済戦争
第8章 危機こそ絶好のチャンス
――パッケージ化されるショック療法
第四部 ロスト・イン・トランジション――移行期の混乱に乗じて
第9章 「歴史は終わった」のか?
――ポーランドの危機,中国の虐殺
第10章 鎖につながれた民主主義の誕生
――南アフリカの束縛された自由
第11章 燃え尽きた幼き民主主義の火
――「ピノチェト・オプション」を選択したロシア
原 注

 

次回の続編では、この『ショック・ドクトリン』を支える理論基盤の始祖、シカゴ学派の経済学者ミルトン・フリードマンと新自由主義について触れたいと思う。

-終-

『ショック・ドクトリン(The Shock Doctrine)』-2、新自由主義とシカゴ学派経済学者の陰謀!?・・・はこちらから

 

 

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